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確実な遺言とは?

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自筆の遺言は、自分だけで作れる反面、

遺言者本人の遺思(この漢字を当てるのが正しいように思います。)どおりに作られていないのではないか、という疑問を持たれやすい作成形式ではあります。

そこで、より客観性を担保した方法で作成することが出来るのが、

公正証書遺言です。

公証役場という公的機関において、公証人という第三者が関与して作成する遺言で、

遺言を作成する際には、2名の証人が立ち会いし、遺言内容通りの意思表示があったことを確認する、

という方法で作成されます。

本人以外の遺言について利害関係を持たない第三者の関与の下で作成されることから、

遺言者の意思通りの遺言が作成されたことが推測され、無効となりづらいという特徴があります。

作成費用は、遺言で相続方法を指定する遺産の金額によって変わり、

概ね数万円から10数万円程度と想定されるとよいでしょう。

細かな要件については、今回は確認しませんが、

遺言をする方が遺言の内容を理解できるような判断能力があれば作成することができます。

立ち合いが必要な証人は、自分で用意することが出来なければ、

日当はかかりますが公証役場で用意してもらうこともできます。

弁護士としては、後の紛争を防止には、遺言を作成することは非常に有効ですし、

その方式は公正証書遺言にしていただきたくことがベターであると思います。

ここからは、個人的な意見なのですが、遺言の内容を相続人が受け容れやすくするためには、

遺産に関する記述そのものではなく、むしろそれ以外に自由に思いを書き遺すことが出来る部分が、

重要であると思っています。

もちろん経済的の争いもありますが、

相続に関する紛争の根っこには感情的な対立があることがほとんどです。

遺言に遺された思いが、相続人の腑にすっと落ちるような内容であることで、

思わず拳を振り上げてしまうような感情になることを防ぐ効果も大きいように思います。

遺言を作成される際は、是非ご自身の遺されたい「思い」について、

厚く遺していただきたいと思います。

 

公正証書遺言が無効となりづらいことは説明いたしましたが、

とは言っても無効と判断された事例もあります。

以下で紹介させていただきます。

(1)東京地判平成28年8月25日

①遺言者の生前に遺言者をアルツハイマー認知症であると診断していた医師が,遺言時の遺言者は高度の認知症に罹患しており遺言するに足りる意思能力はなかったと証言していること(尚,同医師は専門医で,かつ,裁判所における鑑定経験が豊富という特殊性もあり。),②遺言能力は存在したと述べる公証人の意見は医学的根拠がないこと,③公証人が遺言書作成に採用していた質問方針はアルツハイマー認知症患者の「取り繕い」に手を貸すことになってしまう危険性がある旨の医師の指摘があることなどからすれば,遺言者が遺言時に遺言能力を有していたとは認められないとして,公正証書による遺言を無効とした事例。

 

(2)東京地判平成28年3月4日

①遺言者は,自己が代表取締役を務めていた会社の経営を孫に継がせたいと強く望んでいたこと,②その一方で,遺言者は相続人らに相続させる財産の価値については相続人間の平等を保ちたいと配慮していたこと,③ところが,本件遺言は全ての財産を他家に嫁いだ相続人に相続させるという内容になっており,遺言者がこのような翻意をした合理的な理由が見当たらないこと,④本件遺言は会社の経営権争いの過程で作成されており,不自然な点があること,⑤遺言書作成時,遺言者は94歳という高齢であり,遺言書作成から12日後の時点ではせん妄とみられる状態に陥ることがあったことなどからすれば,遺言者に遺言能力は認められないとして,公正証書による遺言を無効とした事例。

 

(3)東京高判平成29年9月26日

原告が,被告に対して,公正証書遺言作成時に遺言能力がなく,「口授」も不可能な状態であり方式違背があるとして,遺言無効を求めた事案。地裁(東京地判平成28年11月17日)は遺言を無効としたが,高裁は遺言は有効であると判断した。

高裁判決において,遺言者のことを記憶していない旨の公証人の認識を根拠として,仮に遺言者が公正証書作成時に不穏な言動等をしていれば却って公証人の記憶に残っていたはずであるとして,遺言作成当時,夜間・早朝にある程度の譫妄の症状が存在していたとしても日中にまで遺言能力を欠くような精神上の障害があったと認めることはできないとした。